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数値目標を同時に成立させる|付加価値額・労働生産性・給与支給総額・事業場内最低賃金を矛盾なく組む

監修:松下 大中小企業診断士/認定経営革新等支援機関株式会社SMARTコンサルティング
最終更新:2026/7/25

結論から言うと、この4つの数値要件は独立した4つの目標ではなく、2本の定義式から派生した従属関係にあります。付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費、労働生産性=付加価値額÷従業員数。この2式を書き下すと、賃上げも設備投資も、そのままでは付加価値額を1円も増やさないことが分かります。人件費を100万円増やせば、他が同じなら営業利益が100万円減って相殺されるからです。つまり付加価値額を動かせるのは、売上と、人件費・減価償却費以外の費用(材料費・外注費・仕入・ロス)だけ。一方で事業場内最低賃金は地域別最低賃金に連動する外部変数で、自社では決められません。数値計画は「目標を4つ並べる」のではなく、外部変数から内側へ、水準から伸び率へ、という順で解くのが唯一の手順です。

まず定義式を4本そろえる。ここを曖昧にしたまま数字を置かない

数値計画がねじれる原因のほとんどは、4つの要件が「何を何で割った数か」を確定させないまま、エクセルに希望的な数字を入れ始めることにあります。先に定義式を4本、公募要領の文言どおりに書き出してください。 付加価値額は、営業利益・人件費・減価償却費の3つの合計です。売上高でも粗利でもありません。ここを取り違えると、以降のすべての計算がずれます。労働生産性は、その付加価値額を従業員数で割ったものです。分母が人数なので、人を増やせば労働生産性は下がり、人を減らせば上がります。 1人当たり給与支給総額は、給与支給総額を対象従業員数で割った数です。給与支給総額に何を含めるかは制度共通で確認が必要な点で、省力化投資補助金(一般型)では給料・賃金・賞与および残業・休日出勤・職務・地域・家族・住宅手当など課税対象の各種手当が対象に含まれる一方、福利厚生費・法定福利費・退職金は除かれます。役員報酬の扱いは制度・公募回で記載が異なるため、申請する回の公募要領で必ず確認してください。 事業場内最低賃金は、補助事業を実施する事業場で最も低い賃金(時給換算)です。平均でも正社員の初任給でもなく、パート・アルバイトを含めた最下限の1点です。複数の事業場で補助事業を行う場合は、最も低い事業場の数値が全体の判定値になります。 そして年平均成長率(CAGR)は単純平均ではなく複利です。(最終年度の値÷基準年度の値)の(1÷年数)乗から1を引いた値。5年で20%伸ばせば年平均4%、ではありません。エクセルで単純に5等分した数字を置くと、最終年度で要件を割り込みます。

  • 付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費(売上高でも粗利でもない)
  • 労働生産性 = 付加価値額 ÷ 従業員数(分母が人数なので、増員は不利に働く)
  • 1人当たり給与支給総額 = 給与支給総額 ÷ 対象従業員数(福利厚生費・法定福利費・退職金は除く)
  • 事業場内最低賃金 = 補助事業を実施する事業場で最も低い時給。複数事業場なら最も低い事業場が基準
  • 年平均成長率(CAGR)=(最終年度÷基準年度)^(1÷年数) − 1。複利であり、単純平均ではない
  • パートタイム従業員の人数の数え方(正社員就業時間換算の要否)は制度ごとに規定が異なるため公募要領で要確認

省力化投資補助金(一般型)の基本要件は「物差しが4本とも違う」

省力化投資補助金(一般型)の基本要件は、公表されている内容では次の4本です。第7回公募要領を公開した中小企業庁の告知および事務局の制度説明で示されている水準は、①労働生産性の年平均成長率が+4.0%以上、②1人当たり給与支給総額の年平均成長率が事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上、または給与支給総額の年平均成長率が+2.0%以上、③事業場内最低賃金が事業実施都道府県の地域別最低賃金+30円以上の水準、④従業員21名以上の場合は次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の策定・公表等、というものです。具体の%・円は必ず第7回公募要領の本文で突き合わせてください。 重要なのは、この4本が測っているものがそれぞれ違うという点です。①と②は「伸び率」、③は「水準」、④は「手続の完了」です。伸び率の要件は3〜5年の事業計画期間を通じた複利で見るため、5年分の数字を並べないと判定できません。水準の要件は各年度で単発に判定され、1年でも割り込めばその年度が未達になります。手続の要件は交付申請時までに終えていればよく、計画の数字とは無関係に落とせます。 ②が「または」でつながれた選択制になっている点も見落とされがちです。1人当たりで見るか総額で見るか、どちらかを満たせばよい構造なので、増員する計画なら総額が伸びやすく、省力化で人員が横ばい・減少する計画なら1人当たりのほうが伸びやすくなります。どちらの物差しで満たしにいくかを先に決めておかないと、5年分の人員計画と賃金計画がかみ合いません。 なお、最低賃金引上げ特例の適用を受ける事業者については、③の事業場内最低賃金の要件が課されない扱いとされています(基本要件は①②④)。自社が特例に該当するかどうかで満たすべき要件の本数が変わるため、ここも先に確定させてください。 さらに基本要件とは別に、補助対象事業の要件として「3〜5年の事業計画期間内に、設備投資前と比較して付加価値額が増加する事業計画を策定すること」が置かれています。つまり労働生産性(付加価値額÷人数)だけでなく、付加価値額そのものの増加も見られます。人を減らして分母を小さくするだけの計画では、この要件を通れません。

  • ①労働生産性の年平均成長率:+4.0%以上(伸び率・複利・計画期間通算)
  • ②1人当たり給与支給総額の年平均成長率が事業実施都道府県の最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上、または給与支給総額の年平均成長率+2.0%以上(選択制)
  • ③事業場内最低賃金:地域別最低賃金+30円以上の水準(水準・各年度で判定)
  • ④従業員21名以上:次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の策定・公表等(手続)
  • 最低賃金引上げ特例の適用事業者は③が課されず、基本要件は①②④とされています
  • 別途、補助対象事業の要件として「設備投資前と比較して付加価値額が増加する計画」が必要

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は「分子」を直接見る

同じ4.0%でも、見ている場所が違います。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募要領では、付加価値額そのものの年平均成長率4.0%以上(付加価値額基準値)を、事業計画期間(補助事業終了後3〜5年)の最終年度に達成する目標として設定します。基準となる付加価値額は、補助事業実施期間の終了時点が含まれる事業年度の数値です。 省力化投資補助金(一般型)が労働生産性(付加価値額÷従業員数)の伸びを見るのに対し、こちらは分母を割らずに分子だけを見ます。この差は、人員計画の自由度にそのまま効きます。増員を伴う計画の場合、省力化側では分母が膨らんで労働生産性の伸びが削られますが、新事業進出・ものづくり商業サービス側では付加価値額さえ伸びれば要件上は問題になりません。逆に、人員を増やさずに売上を伸ばす計画であれば、両制度の難易度はほぼ同じになります。どちらに出すかを迷っている段階で、自社の5年間の人員計画が増員型か横ばい型かを確認しておくと、制度選びの判断材料になります。 賃金側では、一人当たり給与支給総額の年平均成長率について目標値を自社で設定し、計画最終年度に達成することが求められます。事業場内最低賃金は、地域別最低賃金より30円以上高い水準を事業計画期間中の毎年維持する必要があり、この点は省力化投資補助金(一般型)と同じ構造です。賃上げ特例を使って補助上限を引き上げる場合は、この+30円をさらに20円上回る、合計で地域別最低賃金より50円以上高い水準が求められます。 特例の+50円は、5年間ずっと維持する必要がある水準です。上乗せされた補助上限額を前提に設備を選んでしまうと、後戻りできません。特例による引き上げ分は、要件未達の場合に全額が返還対象になります。

  • 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 第1回:付加価値額の年平均成長率4.0%以上(付加価値額基準値)
  • 基準年度は、補助事業実施期間の終了時点が含まれる事業年度
  • 一人当たり給与支給総額の年平均成長率は、目標値を自社で設定して最終年度に達成する
  • 事業場内最低賃金は地域別最低賃金+30円以上を毎年維持。賃上げ特例適用時は+50円以上
  • 省力化投資補助金(一般型)は分母(従業員数)が効くが、こちらは効かない。増員計画なら差が出る

定義式から出る4つのトレードオフ。賃上げは付加価値額を増やさない

ここが本記事の中心です。付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費という式を、そのまま動かしてみます。以下の数字は定義式の挙動を確認するための仮の値で、実在企業の実績ではありません。 第一に、賃上げは付加価値額を増やしません。人件費を100万円増やしたとき、売上も他の費用も変わらなければ、営業利益はちょうど100万円減ります。式の中で+100と−100が相殺され、付加価値額は変わりません。「賃上げすれば付加価値額の要件も同時に満たせる」という理解は、定義式のうえでは成立しません。 第二に、補助対象設備の導入で増える減価償却費も同じです。減価償却費が200万円増えれば営業利益は200万円減り、付加価値額は動きません。ただし、補助金収入や圧縮記帳に伴う損益は営業利益の外(営業外収益・特別損益)に計上されるのが通例で、減価償却費だけが営業費用として営業利益を押し下げます。処理方法によって営業利益と減価償却費の内訳が変わり、営業利益が黒字か赤字かという別の判定にも影響するため、顧問税理士と処理方針を先に決めてください。 では何が付加価値額を増やすのか。式に残るのは、売上と、人件費・減価償却費以外の費用だけです。すなわち、同じ人数でより多く売る(売上増)か、材料費・外注費・仕入・不良ロス・水道光熱費といった外部への支払いを減らすか。省力化投資が付加価値額を押し上げる経路は、この2本しかありません。事業計画書に書くべき因果は「設備を入れる→残業が減る」ではなく、「設備を入れる→同じ人数で処理量が増える/外注に出していた工程を内製化する→売上または外部支払いが動く」という形になります。 第三に、人員を減らすと労働生産性の分母は下がり、①の要件には有利に働きます。しかし②を「給与支給総額(総額)の年平均成長率+2.0%以上」で満たそうとしている場合、人数が減れば総額も減りやすく、不利になります。人員が減る計画なら②は1人当たりで、増える計画なら②は総額で満たしにいく。この選択を先に固定してから5年分の数字を置いてください。 第四に、営業利益の水準そのものが別の判定に効きます。事業場内最低賃金の未達に対する返還は、付加価値額が増加しておらず、かつ当該事業年度の営業利益が赤字である場合や、天災など事業者の責めに帰さない理由がある場合には免除される扱いとされています。裏返すと、付加価値額が伸びているのに賃金だけ据え置いた場合は免除されません。付加価値額を伸ばす計画と賃金を上げる計画は、制度設計上セットになっています。

  • 人件費+100万円 → 営業利益−100万円 → 付加価値額は変わらない(相殺)
  • 減価償却費+200万円 → 営業利益−200万円 → 付加価値額は変わらない(相殺)
  • 付加価値額を動かすのは、売上と、人件費・減価償却費以外の費用(材料費・外注費・仕入・ロス)だけ
  • 人員減 → 労働生産性の分母が下がり有利。ただし給与支給総額(総額)の伸び率には不利
  • 人員増 → 労働生産性は不利。ただし給与支給総額(総額)の伸び率には有利
  • 営業赤字は、事業場内最低賃金の返還免除の入口になり得る一方、労働生産性・付加価値額の要件は同時に落ちる

解く順序:外部変数 → 水準 → 人件費 → 損益 → 伸び率

結論として、数値計画は次の順序でしか解けません。逆から始めると、必ずどこかで矛盾します。 多くの申請者は、付加価値額の目標から書き始めます。しかし付加価値額は営業利益・人件費・減価償却費の合計であり、そのうち人件費は事業場内最低賃金という外部変数に縛られています。自分で決められない数字から先に確定させ、決められる数字を最後に調整する。これが順序の理由です。 実務上つまずきやすいのは、賃金テーブルの引き上げが人件費に与えるインパクトを甘く見積もる点です。事業場内最低賃金は最下限の1点ですが、その1点を上げると、そのすぐ上の等級との差が潰れます。差を維持しようとすれば、上の層まで連鎖的に上げることになり、人件費の増加額は「最下限を上げた分×該当人数」よりはるかに大きくなります。5年分を先に試算しないと、営業利益の見通しが崩れます。 また、④の一般事業主行動計画は数字の話ではありませんが、締切に直結します。次世代育成支援対策推進法上の策定・届出義務は常時雇用する労働者101人以上の企業に課され、100人以下は努力義務です。ところが省力化投資補助金(一般型)の基本要件は従業員21名以上で求められるため、法律上は努力義務にとどまる規模の会社でも、補助金の要件としては策定・公表が必要になります。公表先である厚生労働省の「両立支援のひろば」への掲載には日数がかかるため、交付申請の直前に着手すると間に合いません。

  • ①事業実施都道府県の地域別最低賃金を厚生労働省の全国一覧で5年分拾い、年平均成長率を自分で計算する(都道府県ごとに値が違う)
  • ②自社の事業場内最低賃金の現在値を確認し、地域別最低賃金+30円のラインまで何円足りないかを出す。複数事業場なら最も低い事業場が基準
  • ③賃金テーブルの引き上げが人件費をいくら押し上げるかを、上位等級への連鎖分まで含めて5年分試算する
  • ④その人件費増を吸収して営業利益を黒字に保てる売上・外部支払いの水準を逆算する
  • ⑤付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)を年度ごとに置き、人員計画を確定させて労働生産性の伸び率を検算する
  • ⑥給与支給総額(総額)と1人当たり給与支給総額の両方を年度ごとに出し、要件をどちらの物差しで満たすかを決める
  • ⑦従業員21名以上なら、交付申請時までに一般事業主行動計画を策定し「両立支援のひろば」で公表する(掲載までの日数を逆算する)

事業場内最低賃金は自社では決められない外部変数である

4つの要件のうち、事業場内最低賃金だけは自社の努力とは無関係に必達ラインが動きます。要件が「地域別最低賃金+30円以上」という相対値で書かれているためです。+30円は定数なので、地域別最低賃金の引上げ幅が、そのまま自社の必達ラインの引上げ幅になります。 直近の実績を見ると、令和7年度の地域別最低賃金改定では、全国加重平均が時間額1,055円から66円引き上げられて1,121円となり、引上げ率は6.25%でした。中央最低賃金審議会が示した目安(63円)を上回る改定を行った道府県が多数を占めています。つまり、目安が出た時点の数字をそのまま自社の前提に置くと、実際の改定額に届かない可能性があります。 発効日にも注意が必要です。令和7年度の改定は2025年10月から2026年3月末にかけて順次発効し、都道府県によって時期がずれました。「毎年10月に一斉に上がる」という前提で年度末の判定を組むと、県によっては想定と1〜2か月ずれます。省力化投資補助金(一般型)では、事業計画期間中の毎年3月末時点で事業場内最低賃金の要件を満たしているかが判定されるとされているため、10月〜3月の間に発効した改定は、その年度末の判定に効いてきます。判定基準日と発効日の関係は、申請する回の公募要領で必ず確認してください。 そして本記事の更新時点(2026年7月25日)では、令和8年度の地域別最低賃金の改定額は確定していません。中央最低賃金審議会での目安審議が続いている段階です。省力化投資補助金(一般型)第7回の申請締切は2026年7月31日ですから、申請書を書いている時点では、事業計画1年目の必達ラインがいくらになるかを誰も知らない、という状況で数字を置くことになります。5年計画なら改定は5回来ます。余裕をゼロで組むと、初年度から要件を割り込みます。 なお、要件②の選択肢の一方が「事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上」となっているのも、同じ設計思想の表れです。賃金の伸びを最低賃金の伸びに連動させろ、という要求です。この年平均成長率は都道府県ごとに異なるため、全国平均を使うのではなく、事業実施都道府県の過去5年分の額を厚生労働省の全国一覧から拾って自分で計算する必要があります。

  • +30円は定数。地域別最低賃金の引上げ幅が、そのまま自社の必達ラインの引上げ幅になる
  • 令和7年度改定:全国加重平均は1,055円→1,121円(+66円、引上げ率6.25%)。目安63円を上回った道府県が多数
  • 令和7年度の発効日は2025年10月〜2026年3月末に分散。「10月一斉」ではない年がある
  • 省力化投資補助金(一般型)は毎年3月末時点で判定とされる。10月以降の発効も年度末判定に効く
  • 本記事更新時点(2026年7月25日)で令和8年度の改定額は未確定。第7回の締切時点では1年目の必達ラインが未知数
  • 要件②の「最低賃金の直近5年間の年平均成長率」は都道府県別。全国平均で代用しない

未達時の扱いは要件ごとに違う。返還の重さが同じではない

4つの要件は、未達になったときの結果がそれぞれ違います。同じ「未達」でも、全額返還になるもの、按分返還になるもの、免除規定があるものが混在しています。ここを把握しないまま目標値を高めに設定すると、後から効くのは加点ではなく返還のほうです。 省力化投資補助金(一般型)では、給与支給総額に関する目標が未達の場合、達成率に応じた一部返還が求められ、年平均成長率がゼロまたはマイナスになった場合は補助金の全額返還とされています。伸びが足りないだけなら按分、伸びていないなら全額、という二段構えです。 事業場内最低賃金の未達は、補助事業が完了した事業年度の翌年度以降、事業計画期間中の毎年3月末時点で判定され、達成できていない年度について、補助金額を事業計画年数で割った額の返還を求められます。5年計画で1年だけ落とせば5分の1、という按分の考え方です。ただし前述のとおり、付加価値額が増加しておらず当該事業年度の営業利益が赤字である場合や、天災など事業者の責めに帰さない理由がある場合には免除規定があります。 大幅賃上げ特例を適用して補助上限を引き上げていた場合、特例の要件が未達になると、特例による上限引き上げ分(通常の上限額との差額)の返還が求められます。上乗せして受け取った分がそっくり戻る構造なので、特例は「達成できる見込みがあるか」だけで判断すべきものです。 一方、労働生産性の年平均成長率が未達だった場合に返還が伴うのかどうかは、本記事の調査時点では確認できませんでした。制度によって、賃上げ関連の未達のみを返還対象とし、生産性目標は報告のみを求める設計もあります。第7回公募要領の返還に関する章で必ず確認してください。ここを推測で埋めないでください。 また、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、一人当たり給与支給総額の未達について、補助金交付額に「1 −(最終年度の実績年平均成長率÷目標値)」を乗じた額を返還する計算式が置かれ、年平均成長率がゼロまたはマイナスなら全額返還とされています。目標値を高く置くほど分母が大きくなり、同じ実績でも返還額が増える構造である点に注意してください。加えて、目標値を従業員等へ表明していなかった場合は交付決定の取消しと全額返還の対象になるとされています。数字の達成以前に、手続の欠落で全額が飛びます。

  • 省力化:給与支給総額の目標未達は達成率に応じた一部返還。年平均成長率がゼロ・マイナスなら全額返還
  • 省力化:事業場内最低賃金の未達は、補助金額÷事業計画年数の額を返還(付加価値額が増加せず営業赤字の場合等は免除)
  • 省力化:大幅賃上げ特例の未達は、特例による上限引き上げ分の返還
  • 省力化:労働生産性の未達に返還が伴うかは確認できませんでした。第7回公募要領で要確認
  • 新事業進出・ものづくり商業サービス:一人当たり給与支給総額の未達は、交付額×{1−(実績年平均成長率÷目標値)}を返還
  • 新事業進出・ものづくり商業サービス:目標値の従業員等への表明を欠くと、交付決定の取消しと全額返還の対象

申請前チェックリストと、この記事の限界

最後に、計画を提出する前に潰しておくべき点を並べます。いずれも定義式と要件の構造から機械的に導けるもので、外部の専門家に依頼していても、経営者自身が確認できる項目です。 この記事の限界も明記しておきます。本記事は、中小企業庁および事務局が公表している制度説明と、公募要領に基づく既存の解説をもとに、定義式から導ける関係を整理したものです。%・円・判定時点といった個別の数値は、申請する公募回の公募要領本文で必ず突き合わせてください。制度は公募回ごとに改定され、数値も判定方法も変わり得ます。本記事は特定の計画が要件を満たすことや、採択されることを保証するものではありません。 事業計画書としての文章構成、審査項目への対応、算出根拠の書き方については、制度別の事業計画書の解説を参照してください。賃上げ要件の返還条件を制度ごとに詳しく確認したい場合は、各制度の賃上げ・返還に関する解説をあわせてご覧ください。境界的な判断や、自社の会計処理が付加価値額の算定にどう影響するかは、顧問税理士および認定経営革新等支援機関に確認することをおすすめします。

  • 付加価値額を、売上高や粗利ではなく「営業利益+人件費+減価償却費」で計算しているか
  • 年平均成長率を単純平均ではなく複利で計算しているか。最終年度で要件を割り込んでいないか
  • 労働生産性の分母(従業員数)の5年分の推移が、人員計画と一致しているか
  • 給与支給総額を「総額」で満たすのか「1人当たり」で満たすのか、どちらの物差しかを決めているか
  • 事業場内最低賃金の必達ラインに、毎年の地域別最低賃金改定分の余裕を織り込んでいるか
  • 賃金テーブル引き上げの上位等級への連鎖分を人件費に反映しているか
  • 各年度の営業利益が赤字に落ちていないか。落ちる年度がある場合、その影響を把握しているか
  • 従業員21名以上の場合、一般事業主行動計画の策定・公表が交付申請時までに間に合う日程になっているか
  • 補助金の会計処理(圧縮記帳の要否)を税理士と決め、減価償却費と営業利益の見通しに反映しているか
  • 特例(大幅賃上げ・賃上げ特例)を使う場合、上乗せ分が返還対象であることを前提に投資額を決めているか

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よくある質問

Q.賃上げをすれば付加価値額の要件も同時に満たせますか?

定義式のうえでは満たせません。付加価値額は営業利益+人件費+減価償却費です。人件費を100万円増やしても、売上や他の費用が変わらなければ営業利益が100万円減り、合計は変わりません。付加価値額を増やせるのは、売上を伸ばすか、材料費・外注費・仕入・不良ロスなど人件費と減価償却費以外の費用を減らすかのどちらかです。賃上げ要件と付加価値額(労働生産性)要件は、別々の打ち手で満たす必要があります。

Q.省力化で人員が減ると、要件は満たしやすくなりますか?

要件によって逆に働きます。労働生産性は付加価値額÷従業員数なので、人員が減れば分母が小さくなり有利です。一方、給与支給総額を「総額」の年平均成長率で満たそうとしている場合、人数が減ると総額も減りやすく不利になります。省力化投資補助金(一般型)の要件は1人当たりと総額の選択制とされているため、人員が減る計画なら1人当たりで満たしにいくのが整合的です。また、人を減らして分母を小さくするだけでは、付加価値額そのものが増加する計画という別の要件を満たせません。

Q.地域別最低賃金は毎年上がりますが、5年計画にどう織り込めばよいですか?

要件が「地域別最低賃金+30円以上」という相対値である以上、地域別最低賃金の引上げ幅がそのまま自社の必達ラインの引上げ幅になります。令和7年度の改定では全国加重平均が1,055円から1,121円へ66円(6.25%)引き上げられ、目安の63円を上回った道府県が多数でした。本記事更新時点(2026年7月25日)で令和8年度の改定額は確定していません。改定幅を低めに見積もった計画は初年度から崩れる可能性があるため、余裕を持った水準で組み、事業実施都道府県の過去の改定実績を厚生労働省の全国一覧で確認してください。

Q.従業員21名以上で必要な一般事業主行動計画は、いつまでに何をすればよいですか?

次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画を策定し、厚生労働省の「両立支援のひろば」で公表する必要があり、省力化投資補助金(一般型)では交付申請時までに完了させることが求められます。法律上の策定・届出義務は常時雇用する労働者101人以上の企業に課され、100人以下は努力義務ですが、補助金の基本要件は従業員21名以上とされているため、法律上は努力義務の規模でも補助金のためには対応が必要です。公表サイトへの掲載には日数がかかるため、締切直前の着手は避けてください。

Q.目標値は高く設定したほうが審査で有利ですか?

高い目標が加点につながる可能性がある一方、未達時の返還額も連動して大きくなります。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、一人当たり給与支給総額の未達に対する返還額が交付額×{1−(実績年平均成長率÷目標値)}で計算されるとされており、目標値が大きいほど同じ実績でも返還額が増える構造です。採択の可否は審査で決まるものであり、目標値を上げれば採択されるというものではありません。達成できる根拠を数字で示せる水準に置くのが基本です。

Q.労働生産性の目標が未達だった場合も返還されますか?

省力化投資補助金(一般型)について、労働生産性の年平均成長率が未達だった場合に返還が伴うかどうかは、本記事の調査時点では確認できませんでした。公募要領で要確認です。確認できている範囲では、給与支給総額の未達は達成率に応じた一部返還(年平均成長率がゼロ・マイナスなら全額返還)、事業場内最低賃金の未達は補助金額÷事業計画年数の額の返還とされています。返還の章は要件ごとに条件が分かれているため、自社が満たす要件それぞれについて条文を確認してください。

Q.補助金で買った設備の減価償却費は、付加価値額を押し上げますか?

定義式上、減価償却費は付加価値額に加算されますが、同時に営業費用として営業利益を同額押し下げるため、合計としては中立です。ただし、補助金収入や圧縮記帳に伴う損益は営業外収益・特別損益に計上されるのが通例で、営業利益の水準そのものは処理方法によって変わります。営業利益が赤字かどうかは、事業場内最低賃金の未達時の返還免除の判定にも関わるため、会計処理の方針は申請前に顧問税理士と決めておいてください。

出典:中小企業省力化投資補助金(一般型)とは(中小機構)中小企業省力化投資補助事業(一般型)公募要領(PDF)中小企業庁 中小企業省力化投資補助事業(一般型)の第7回公募要領を公開しました新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 第1回公募要領(PDF)中小企業庁 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募要領を公開しました厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧厚生労働省 一般事業主行動計画の策定・届出等について(次世代育成支援対策推進法)厚生労働省 両立支援のひろば(一般事業主行動計画公表サイト)

※ 本記事は公表されている一次情報に基づく一般的な整理です。制度の要件・金額・期限は公募回ごとに変わるため、申請時は必ず最新の公募要領をご確認ください。採択を保証するものではありません。

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監修:松下 大(中小企業診断士/認定経営革新等支援機関)

公募要領等の一次情報に基づき作成。最終更新:2026/7/25